主人公は、ディーコン




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PS4のアクションゲーム。開発はベンドスタジオ。

ゲームがHD世代になってから金のかかった大作はこぞってシームレスなフィールド、いわゆるオープンワールドを採用するようになった。
マップが地続きになったことによる分かりやすい特徴は、どこまでも自由に移動ができるという点だろう。それゆえ、プレイヤーの行動が制限されない自由度を重視したものがこのジャンルは多い。
ストーリーもプレイヤーの選択肢によって柔軟に話が進み、まるで自分が主人公であるかのようにゲームに入り込むことができる。とにかくプレイヤー主観を大事にしよう、という意図をオープンワールドのゲームでは強く感じる。

さて、デイズゴーン。ゾンビが溢れたオープンワールドでサバイバルをするという良くある題材のゲームだが、オープンワールドの使い方が他のゲームとは違う。
と言うのもこのゲーム、自由度は殆ど気にしていない。マップは大きく分けて3エリアあるがストーリー進行によって移動できる場所に制限があるし、メインの移動手段はバイクだが序盤は2分も走ればガス欠を起こしてガソリン探しに奔走する羽目になるし、ストーリーは選択肢が全くなく決まった通りに話が進み決まった結末を迎える。
このゲームは自由度なんてどうでも良いと割り切っている。あくまで、世界を表現するための手段の一つとしてオープンワールドを活用しているわけだ。
オープンワールドのゲームは自由度があって当たり前、という風潮が強い中、何故あえて常識から外れた作りにしているのか。
それは、このゲームが最も伝えたいのは、ディーコンという1人の男の物語だからだ。オープンワールドにありがちなプレイヤー主導のゲーム体験ではなく、ディーコンという男によるストーリー体験をこのゲームは最も重視している。そしてこのストーリーは非常に牽引力があった。

主人公はディーコン・セントジョン。2年前に起こったパンデミックにより生死不明の妻サラを探し回っている。
オープンワールドのゲームはプレイヤーが主人公であるという形を明確にするために操作キャラクターに感情を持たせず無個性化していることも多いが、デイズゴーンの主人公はよく喋るし、葛藤するし、妻を心から愛している。相棒との友情、妻への想い、こんな世界になっても生きようとする決意。無個性化した主人公では伝わらないドラマが、このゲームのストーリーにはたくさん詰め込まれている。
ディーコンは決して善人ではない。自分の復讐心を満たすために平気で大量殺戮を実行したりもする。このゲームでは選択肢が現れてプレイヤーの選択次第で行動を変えるなんてことは勿論出来ない。主人公の一方的な感情によってストーリーは進んでいく。
確かに共感できない場面も多いが、だけど感情移入してしまう。その人の想いが伝わってくるから。殺らなければ、殺られる。生きるためなら何でもしてみせる人間の生存本能を容赦なく誤魔化しなく描ききっているのは見事。
そしてこのゲームは、こんな世界でなんのために人は生きるのか、というテーマをものすごく丁寧に描いている。
ディーコンは妻のサラを探し続ける。しかし2年経っても全く痕跡は見つからない。周りは言う。サラは死んだ。過去に縛られるのはもうやめろと。
一度は妻のことを諦めて過去を清算しようとするが、また僅かな可能性が見つかるとそれに縋り付いてしまう。どうしてもディーコンはサラを諦めることが出来ない。
友人らは過去に囚われずに前に進めと言う。しかし、サラこそがディーコンの全てであり、彼の生きる目的だ。サラの生存を信じて探し続けることが、彼にとって前に進む未来への一歩なのだ。
こんな世界では、目的や希望がなければ人は生きていけない。僅かな可能性に縋り付いて、絶望的な状況でも足掻いて、たとえ周りからは惨めだと思われても諦めず、必死に希望を持って生きようとする主人公の姿にはグッとくるものがあった。
そして妻の捜索だけでは終わらず物語は大きく広がっていく。海外ドラマのシーズン3個分くらい詰め込んでるんじゃないかと思うほどボリュームと二転三転するストーリー展開だった。かなり無理矢理なところもあるが、それでもここまでやり切ってくれたら満足。
最後の主人公のスピーチも良い。希望を持って生き続けた主人公だからこそ響く言葉だ。
忘れちゃいけないのがバイクの存在。バイクはゲーム中のメインの移動手段であるが、すぐにガソリンが無くなるし、雑な運転をすると簡単に横転するし、コケたら起こしたり、壊れそうになったら修理したりと、かなり手間がかかる。
しかし手がかかるからこそ、このバイクに愛着が湧く。バイクにただ助けられるのではなく、自分もバイクを助ける。この持ちつ持たれつな関係が俺は気に入った。だからこそバイクにパートナーとして特別な感情を持つことができるし、引いてはそれは主人公とバイクの旅に雰囲気を作っている。
そしてそれはストーリーの熱にも繋がっている。バイクはストーリー上でも重要な存在だ。二人の出会いは主人公がツーリングの途中で車をエンストさせたサラを見つけたことから始まり、仲が深まったあとのデートでも二人でバイクに乗ったりと、ディーコンとサラの関係にはバイクが愛のキューピットとして大事な役割を果たしている。バイクを特別な存在として感じられることで、それは大きな情緒を作っていた。

ゲーム部分は普通。基本的に依頼を受けて目的地に行って単純なミッションを繰り返すお使い形式。やることも殆ど同じ事の繰り返し。アクションとしてもサバイバルとしても際立った部分はなく、普通としか言いようがない。
しかしこのゲームの目玉であるゾンビの大群。これには度肝を抜かれた。誇張ではなく、本当に何百体ものゾンビが一斉に襲いかかってきて凄まじい光景だった。一瞬でも油断すると数の暴力で即死するので緊張感も相当なもの。
でも単純に時間がかかるので2回目以降からは正直面倒だった。もっとまとめてゾンビを殺せる必殺道具が欲しかったね。そういう役割でナパーム火炎瓶が登場するけど、まだ火力が足りない。

感情豊かなキャラクター。キャラの意思によって進んでいくストーリー。このゲームの主人公はプレイヤーではなく、ディーコンである。プレイヤーが物語に介入できる余地は全くない。だけど、だからこそ登場人物の想いに感動できるドラマチックな物語が生まれている。そこにオープンワールドのリアリティ溢れる世界が加わって、非常に情緒あるストーリー体験が出来上がっていた。
オープンワールドだからと言って自由度に固執する必要はない。オープンワールドは世界のリアリティを高める意味で有効な手段なんだから、ストーリーに利用するだけでも充分価値がある。
このゲームはオープンワールドの新しい可能性を見せてくれたね。