はーる



『名探偵コナン ゼロの執行人』

image

現在公開中のコナン新作映画。
キャラとアクションを見せる事を至上命令としている最近のコナン映画の中ではメッセージ性がある方だった。
公安に属する安室透を今作のメインに据えているが、ただ安室様カッコいい!だけでは終わらず、公安の組織としての理念が見えるストーリーになっている。
毛利小五郎が爆破事件の容疑者として挙げられる展開も強引ではあるが、ただ話をキャッチーに見せるためではなく、ストーリーのテーマに繋がっているためそれなりに納得できる。
犯人の動機は大袈裟すぎるが、これも公安の一面を見せるための流れではある。
たとえ非人道的であっても、もっと大きな正義のために尽くす。いつもの行き当たりばったりな展開とは違い、今作は何をストーリーとして見せたいかがハッキリしているので、そこらへんのメッセージは伝わってきた。
とは言え、話はそんなに面白くない。物語が問題というよりは見せ方の問題。
大袈裟すぎるアクション。絶対に起こる大爆発。機密を小学生に漏らしまくる警察。ここを否定したらコナンが成り立たなくなるが、最近はエンタメとリアリティのバランスがイカれててやり過ぎで冷める。
エンタメ路線を強調する事によって興行収入が伸びているのは間違いなく、当分はこのまま変わりそうにないのがね。でも、今作は一部ストーリーで印象に残るシーンもあったな。
結局はいつものコナン。いつも通りコナン君は超人的で、いつも通り蘭姉ちゃんがやばい事になって、いつも通り凄まじい出来事が起こる。
事件のスケールも壮大で、劇場版らしい非常にスペクタクルな展開を見せてくれる。コナン映画として外さない作り。


『クレヨンしんちゃん 爆盛り!カンフーボーイズ 〜拉麺大乱〜』

image

現在公開中。
クレしんの映画は本当に安定しているなー。今作も面白かった。
子供騙しにならず、かと言って大人により過ぎず。相変わらず絶妙なバランス。
基本的にふざけたギャグアニメでありながら、時折ハッとする場面を織り交ぜてくるのもクレしん流。
しんちゃんや風間君が順調に課題をこなしていく中で、いち早くカンフーを始めたのに一人だけ取り残されるマサオ君の劣等感の抱き方とか凄い生々しかったな。
とは言え途中までは当たり障りのない展開で退屈だったが、後半から予想外の流れになって驚く。それも取って付けたものではなく、ちゃんとメッセージ性があるから考えさせられる。
子供がメインだからといって、単純な友情・絆・愛といった綺麗もので誤魔化さず、汚いものもちゃんと見せて、しかし説教臭くなることもなく、エンターテイメントとして楽しませながら自然な流れとして観る者に訴えかけ、子供達だけでなく大人達にも考えさせる場を作る。
これが毎回のように出来ているクレしん映画は凄い。
最後の展開は見事。世界を救うのは、暴力でもなく、一方的な正義の思想でもなく・・・。
ぶっ飛んでいたが、クレしんだからこそできる表現で、素晴らしい決着のつけ方だった。


『クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』

image

ネトフリでクレしんの映画が一挙配信。とりあえず全部マイリストに入れといて、ブタのヒヅメ大作戦を観る。
キャラクターの個性で笑いを取ろうとするクレしんにしては珍しく、基本的に真面目なノリで、仲間にしても敵にしても変態じみた存在が殆どいない。黒幕も凄い地味なおっさんだし、面白おかしく見せているのは博士の助手のオカマくらいか。
敵の組織の目的もコンピューターウイルスを作って世界征服をする、という至って普通すぎるもの。明らかに今作は、『真面目』を意識して作っている感じがある。
だから面白い。黒幕が真面目に野望を語っているところでのしんちゃんのトボけたツッコミ。絶体絶命のピンチからのダンス。コラージュ攻めの拷問。コンピューターウイルスがぶりぶりざえもん。
骨格自体はハリウッド映画を意識した大作アクションなのに、ところどころでクレしんのふざけたノリが混ぜられて、真面目を茶化しながら真面目をやっている。そんな真面目とおふざけのメリハリが面白かった。


『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』

image

タイトルから分かる通り、このクレしん映画は分かりやすいギャグが多い。キャラクターも個性的というかウケ狙いで、今作はギャグの自己主張が強い。
一方でストーリーも丁寧に作られていて、相変わらずボスの倒し方が見事だった。クレしんは本当に決着のつけ方が上手いよなーと思う。
テーマの一つとなっているしんちゃんのお兄ちゃんとしての自覚や、ヒロインの存在感は薄っぺらいように見えたが、最後の5分できっちり表現。ソツがない。


『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』

image

久しぶりに見たけど、また泣いちゃった。まごう事なき大傑作。
過去は素晴らしい。でも、未来はもっと素晴らしい。
現実は思い描いていたものと違うかも知れないけど、未来は自分の手で築き上げる事ができる。この映画は、そんな当たり前の事を気付かせてくれる。


『黒井戸殺し』

image

原題は、アクロイド殺し。アガサクリスティのミステリーを三谷幸喜がドラマ化。
アクロイド殺しと言えば、語り手の人間が犯人という仕掛けがあまりにも有名だけど、どういう感じで映像で表現するんだろ?監督は三谷幸喜なわけで、予想を裏切るアイディアを見せてくれるに違いない!
と、気になって見てみたが、ただ犯人にとって都合の悪いシーンを省いているだけだった。そりゃそれが無難なやり方だけど、そんなの誰にだって思い付く。普通すぎてガッカリした。
同じく三谷幸喜がアガサクリスティのオリエント急行殺人事件をドラマ化した時は、乗客全員が犯人であるという最大のネタを早々にバラして、原作ではいまいち掘り下げられていなかった犯人の動機や犯行計画の様子についてスポットを当て、殺人を決意するに至った12人の人間模様が強く描かれた非常に面白い内容だった。
人と人の結びつきを見せるのが上手い三谷幸喜らしいエッセンスが取り込まれ、原作にはない魅力が宿っていた。
それと比べるとこれはインパクトがない。ミステリーとしてはかなりの力作で、伏線は細やかだし、人間関係も自然だし、本格派になりすぎない程度に砕けていて見やすいし、面白いドラマなのは確かだが、原作を知っている身からすれば想像を超えるものは何もなかった。小説を読めば充分。


『氷菓』

image

“やらなくても良い事ならやらず、やらなければいけない事は手短に、がモットーの省エネに生きる高校生、折木奉太郎は、やらなくても良い事なのに頑張るのでした”

イライラするね。何も行動せずに頭の中でプライドを満たし、自虐という名の自己正当化で逃げている人間は。微塵も共感したくない人間が主人公という地位にいるのだから正直見てられない。
けど、見てしまう。それを覆すくらい氷菓は面白いから。
アニメも面白かったけど、実写映画も面白かった。実写の方は主人公の人間性が抑え目で、そういう意味でも見やすかった。


『カリギュラ』

image

ネトフリは本当に俺のツボを突いてる。原作のゲームは割とお気に入りで、アニメも見たかったんだよね。
気に入っているのは、やたらと現代的な世界観。満ち足りない人間たちによって生まれたボーカロイド、u。それが作り出す理想の世界、メビウス。そこに人々は囚われ、現実を忘れ何でも理想が叶う世界を満喫する。
かなり極端ではあるが、このuの歌声に惹かれて住み着いたメビウスの住人は、何かに熱狂して心の空洞を埋めようとする現代のオタクそのものであり、自分の中にないものを心の柱として生きている人間の構造をかなり直接的に表現している。
無条件に愛を振りまき、人々の心を浄化させるuはそんなオタクにとっての偶像であり、実に現代的な神だ。
そんな現代病理に踏み込んだ設定によって、ありがちなジュブナイルストーリーにリアリティが宿っている。
キャッチコピーである「理想(きみ)を壊して、現実(じごく)に帰る」という言葉通り、夢に囚われて現実から目を背けてはならないという、主人公達の葛藤と前向きな意思が感じられるストーリー展開は、とても見応えがあった。それでいて、何かに依存して生きる事を決して否定していないのも良い。

一方で、ゲームではメビウスの世界の表現が薄っぺらくもあった。この世界観のミソは、住人は現実世界だと思い込んで生活していて、目に見えているものが本物だとは限らない不明瞭な感じだが、ゲームの方では現実とメビウスの曖昧性を見せる事なく、開始直ぐにここはメビウスだよーん!とネタバレしていて残念だった。
多分、それだけのために街を作ったりムービーを作るのは金がかかるから省いたんだろうね。新規タイトルだから低予算なのは仕方ない。
しかし流石にアニメはムービーが本職なだけあって、メビウスの世界観をよく見せている。メビウスの世界を現実っぽく表現して、徐々に、あれ?この世界おかしいんじゃね?という違和感を滲ませている。
まだ2話だが、ゲームでは物足りなかった部分を丁寧に描いてくれて好印象。1クールらしいから尺足りるのか不安だけど。
バトルは適当で良いから、人間を描くことに注力して欲しい。


『マザー』

image

人里離れた場所で夫婦2人が静かに暮らしているところにある日突然訪問者がやってきて、行く宛がないと言うから泊めてあげる事になって、次の日にはその訪問者の妻がやってきて奥さんを挑発したり夫の大事なものを壊したりその数分後にセックスしたりとやりたい放題で、そうこうしている間に訪問者の息子兄弟が押しかけて相続問題で喧嘩に発展し終いには兄が弟を殺してしまい、血塗れの弟を病院に連れて行きようやく訪問者一家が去ったと思ったらその数時間後には戻ってきて弔いの場として夫婦の家を使い始めて親族もゾロゾロと湧いて挙句に台所を破壊して家の中を水浸しにし、それをキッカケにようやく訪問者たちは全員去り、奥さんは子供を授かり、夫は長年スランプに悩んでいたが筆が止まらなくなり、良い方向に物事が進むかに見えたが、夫が出版した詩が飛ぶように売れたことでファンが大挙として家に集まり、暴動が起き、警察や機動隊も乱入し、紛争状態になるのでした。

なにこれ?呆気にとられる展開の連続。全く意味がわからない。まるで三谷幸喜の喜劇を見ているかのようだったが、この映画は至って真面目であり、なんかもう怖い。
終盤は流石に過激すぎてファンタジーだと理解できたけど、訪問者ファミリーが押しかけて勝手に人の家で悶着を起こすあたりは、もう本当に不気味で気味が悪かった。
多分、何かのメタファーを表した映画なのだと思う。神話か宗教かスピリチュアルか知らないが、何かしらモチーフがあるのだろう。しかし考える気にもなれない。圧倒的な不快感が押し寄せてくる。
これほど見ている人を不快にさせるモノは中々ないので、そういう意味では見る価値がある。