踏み込んだ、逆転裁判



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3DSのアドベンチャーゲーム。開発はカプコン。ネタバレ注意。

シリーズの生みの親である巧舟が久しぶりに復帰した本作。
彼の特徴は、何と言っても現実味という枠に囚われず勢いに任せて突っ走る大胆さだろう。
死人と交信するとかいう怪しすぎる霊媒術。自己主張の塊である登場人物。あり得ないシチュエーションの事件。これらを裁判という厳粛な場の中に強引にまとめてみせる図太さには何度も驚かされた。
リアリティの欠片もなく突っ込みどころのオンパレードであるが、荒唐無稽という批判をモノともしないそのパワーの前には圧倒されるしかなかった。そこには謎の説得力があり、笑いがあり、感動があったからだ。
裁判が舞台だからと言って、現実味に囚われず、ゲームだと割り切って面白いものを詰め込むこの大胆不敵さは凄い。そこが逆転裁判の魅力だ。

が、4でやらかしたと判断された巧舟はしばらくシリーズを離れることになり、その間も逆転検事や逆転裁判5とフランチャイズは続いたが、完成度は高くて話も面白いのにどうにも物足りなさが残った。
足りないんだよな。勢いが。あり得ない話の流れや設定を無理矢理なロジックで飛躍して力技で納得させようとするあの強引さが全然足りない。
5も検事も、綺麗にストーリーを進め過ぎているキライがあり、面白いが何か物足りない、という消化不良感があった。それは仕方の無い事なんだけどね。
逆転裁判に勢いを与えていたのは、一重に巧舟の大胆さ、つまるところセンスなのだから。こればかりは誰にも真似出来る事ではない。

ようやく話は戻るが、久しぶりに巧舟がガッツリ関わって作られた本作。
時代設定、キャラクター、システムと刷新され、今までとは全く違うゲームになっている。過去作に縛られず自由に作りたかったという事だろう。巧舟の本領は存分に発揮されているに違いない!
と、期待を胸に始めたが、このゲーム、はっきり言って序盤は全く面白くない。話のテンポは悪いし、事件の顛末に何の驚きもないし、テキストにキレもない。要するに巧舟らしい勢いがない。
シャーロックホームズの存在が面白いくらいで、それ以外は何も注目すべきところがなかった。
が、主人公が日本を離れてロンドンに着いたあたりから、一転攻勢。この辺りから一気に面白くなる。

まず、陪審員制度が良い。6人の陪審員によって判決が決められるのだが、この陪審員が一癖も二癖もある奴らばかり。こいつらが自分本位な考えでコロコロ判決を変えるのが見ていて面白い。逆転裁判の魅力の一つである、キャラの面白さを存分に発揮している仕組みだ。
また、一人が判決を出す毎に天秤が有罪か無罪かに傾く演出があり、これによって裁判の形勢を分かりやすく示している。
全員が有罪判決してもその度に陪審員への尋問が認められて説得するチャンスがあるというのは生温い気はするが、完全に有罪に傾いた天秤が無罪へと傾く様は、まさに大逆転という感じでカタルシスがあって気持ち良い。

相変わらずキャラクターも愉快だ。出てくる登場人物の全てが、一々良い味を出している。いつも通り個性を動きで表現しているのも見事。
19世紀だからと言って夏目漱石とシャーロックホームズが出てくるのだが、こいつらは特にキレキレで笑わせて貰った。
逆転裁判は本当にキャラ作りが上手いよなぁ。感心する。今作なんて陪審員のシステムがあるから更に登場人物が多いのに、どいつもこいつも自己主張が激しくて最高だった。

そして、個人的に最も良かったのは、挑戦的なアプローチで作られたストーリーだ。
今まで逆転裁判があまり触れようとしなかった領域に、今作は踏み込んでいる。
逆転裁判の主人公は、一途だ。どんなに追い込まれても依頼人を最後まで信じ抜く。特に前作の5はその点を強調して構築されていた。
これはエンターテイメントとしてとても熱いし、主人公的な考え方で良いのだが、じゃあ依頼人が本当に犯人だったらどうするの?という当然すぎる疑問は常に付きまとっていた。
弁護士として有罪を勝ち取る事に拘るならこの考え方は全く間違いではないが、一方で「裁判とは真実を明らかにする事」と主人公は常々言っており、完全に矛盾している。
「依頼人を最後まで信じ抜く」というテーマは逆転裁判の信念であるが、それは絶対に依頼人が犯人じゃないというご都合主義により成り立っていたものであり、どうも嘘臭い感じが拭えなかった。
この部分に、今作はついに向き合った。思考停止に依頼人を信じるのでなく、正しいことは何なのか、本当に大切なのは依頼人か、それとも真実か、主人公がちゃんと葛藤している。
この点を逃げずに描いたからこそ、本当に信じなければならない人が現れた時の「依頼人を最後まで信じ抜く」といういつもの信念に深みが出ていた。
そうしてついに、依頼人を信じるのではなく、自分を信じるんだ、という答えに行き着くのだが、これは「依頼人を最後まで信じ抜く」「裁判とは真実を明らかにする事」という2つの相反する考え方に対する、見事な解答だと思う。
ネタバレになるので中々書きにくいが、この他にも今までの逆転裁判にはない仕掛けが盛り沢山で驚かされる。
それをやってしまって良いのか、というアンフェアギリギリなのもあるが、とても情緒が感じられ人間臭くて良かった。矛盾を解くというゲーム的にも、これまでとは違った発想が求められて面白い。

あと、今作は検事がとてもイカしてる。逆転シリーズの検事と言えばライバル的な立ち位置でありながら能無しというイメージが強く、終盤になるに連れて無能っぷりが露呈されていたが、今作は強敵だった。
要所要所でカウンターのようにこちらの矛盾を付いて形勢を覆し、何度も山場を作ってくる。理屈を飛躍する事もなく指摘は的確で思わず納得させられるし、確固とした信念を持って動いているのもカッコいい。
とにかく魅力的な検事で、これぞライバルという感じだった。彼の存在よって裁判はいつも以上に手に汗握る展開で熱かった。

終わり方はモヤモヤする。回収されてない伏線がかなり多く、黒幕的なものも明かされてないし、明らかに二部作として作られている感じだ。要するに今作だけでは完結しない。
が、個人的にはこれでアリ。かなりスケールの大きい話を描いてるわけだし、5話で完結させるのは勿体無い。引っ張り方も上手く先が気になる。
ちゃんとエンディングに向けて盛り上げて話のピークを持って来ており、節目は守っている。
クリアーまで40時間程度とボリュームも充分だし、文句はない。ただ、事前に連作であることを発表しておくべきだったかなとは感じる。

流石巧舟だと言わざるを得ない。出だしは躓いてるが、今作は勢いばかりでなく、深みもあった。
今までご都合主義で誤魔化していたテーマにちゃんと踏み込んでいる。今作によって、逆転裁判はテーマ性という意味でもハイレベルなものになった。どんどん進化していくなこのシリーズは。
とりあえず続編も絶対買う。