踏み込む日記。ネタバレ注意。聖職者の獣戦



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バックステップ。バックステップ。またバックステップ。戦いは熾烈を極めている、と見せかけて差は歴然。相手は攻撃一辺倒。俺は防戦一方。突き詰めた獣の力は計り知れない。一振りで致命傷だ。やはり人間と獣には圧倒的な力の差がある。
隙がないわけではない。左腕だ。右腕と比べて明らかに毛が濃く禍々しいオーラを発しているこの左腕は、奴の攻撃の起点となっている事が多い。ほらまた来た。左腕の叩きつけ。左手が地面にめり込んでいるこの間がチャンスだが、近付いた頃には既に相手は次のモーションに入っている。そしてまた俺はバックステップに励むのであった。
獣が脚に力を込めている。大ジャンプ。いや、ジャンプ力ありすぎだろ。視界から完全に消えた。焦る俺。前か。後ろか。どっちに避けるのが安全だ?怖い。後ろにローリングだ。次の瞬間、先ほど俺がいた場所に獣が大スタンプ。間一髪で回避。
流石に力を使ったようで獣は硬直状態。やっと俺のターンが来た。ギミック連撃。斬撃連打に武器のトランスフォームを絡める。変形の加速が加わって威力が若干上昇。左腕は毛が濃いけど防御効果はないようだな。右も左も出血量はさして変わらない。
俺のターンはあっさり終わった。立ち直った獣が狂ったように腕を振り回してくる。丁度俺は鉈を振ってる最中で吹っ飛ばされる。ヤバい、早く起き上がってくれ・・・倒れたところを獣が飛びかかってくる。これがトドメ。

夢から醒める、その前に、夢の中にいた人形が覚醒したので話しかける。血を持ってくれば力に変換してくれるという。生憎だけど血はあいつの所に置いて来たんだよな。ちょっくら取り戻してくるわ。

取り戻すどころではなかった。何ちゅう馬鹿力だよこいつ。腕を二回振り回されただけで体力の許容値を超えた。

夢から醒める。安全に攻撃出来るのはジャンプ後の硬直のみ。バックステップに終始してひたすら待つ。ふん、回避する事に集中すれば攻撃はまず当たらない。攻めの雑念が混じるから死に繋がるんだ。確かに敵は強大だが戦い方というものは必ずある。それを徹底すれば良い。敵の最大の隙はジャンプ後の硬直。ただひたすらそれだけを狙う。まさしく合理的。
来た!ジャンプ攻撃。バックステップで回避。着地した瞬間から左手を斬りまくる。
ダメージが蓄積したようで左手から大量出血。獣は怯んでいる。チャンス到来だ。しかし調子に乗ってはいけない。死んでは元も子もないのだから。攻撃は程々に抑え、充分スタミナを温存して間合いをとる。
痛手を負った獣が不穏な動きを見せている。赤いオーラを取り込み、ギアが入ったとばかりに咆哮。明らかに動きが変わった。さっきまではしょせん獣の身体の動かし方を知らない人間の動きだったが、今ではかなり獣に近付いている。あの体躯と力で野性味まで宿ったら手の付けようがないぞ。これはマズい。
動きが速すぎて距離が取れない。易々とデリケートゾーンに踏み込まれてしまう。いかん、スタミナが。へばったところを見逃してはくれず掴まれてしまう。握り締められそのまま地面に叩きつけられる。

夢から醒める。なーに、戦い方がブレる事はない。むしろますます強固になった。あの猛攻の中を攻め込むのは馬鹿のする事だ。回避に全霊をかける。さっさとジャンプ来い。
間合いを取りすぎて一番厄介な飛び掛かりを誘発してしまう。飛び掛かりから続けざまにラッシュ。スタミナが持たん。

夢から醒める。敵の攻撃を避ける為に必要なのは動きをじっくり観察する事だ。飛び掛かりの前、必ず奴は左手を地面に食い込ませる。これだ。この動きを見逃しさえしなければ・・・
が、例え動きの予兆が分かっていたとしてもそれに対して反応出来るかというのはまた別の話だ。スタミナ、位置、己の反射神経など、様々なハードルを越えなければならない。今回の場合は輸血パックを使っていたのが問題だった。回復したいという欲は判断を鈍らせる。

夢から醒める。ギアが入ると手に負えない。留まるところを知らず暴れまくる獣。ここは銃のカウンターにかけてみるか?拳が振り下ろされる直前に短銃を放つ。何事も無かったようにそのまま拳は振り下ろされ潰された。

夢から醒める。そもそも橋の上というのは場所が悪すぎる。幅一杯に獣の身体が埋め尽くされているため横に回り込む事が困難。更に端に追い込まれて立て続けに攻撃を貰いやすい。獣にとってこの場所は都合が良すぎる。
吠えまくる獣。飛び掛かりで端まで追い詰められた。足元しか見えない。腕の方はどうなってるんだ。確かめるまでもなく爪が振り下ろされた。

夢から醒める。ジャンプが一向に来ない。またラッシュの餌食に。

夢から醒める。もしかして、この戦い方は合理的でも何でもないのか?ただ俺は、死ぬのを待っているだけなのか?

夢から醒める。そうか、俺は根本的に間違っていたんだ。相手は攻めの姿勢を貫いていたのに、俺は死ぬのが怖くてひたすら逃げていた。戦う前から既に負けていたんだ。

夢から醒める。力とか、身体の大きさとか、獣だとか人間だとか、そんなのは些細な問題だった。もっと根が深い所で勝負は決していた。ハナから勝てるはずが無かったんだ。

夢から醒める。待っていたら、殺られる。逃げるな。リスクを背負え。
獣が左腕を振り上げている。ここはバックステ・・・違う、踏み込め。前だ。振り下ろされる手を掻い潜って足元に潜り込む。攻撃が、届く。そのまま斬りまくる。獣が態勢を立て直そうと腕を振り回す。バックステ・・・違う、踏み込め。その攻撃は致命傷ではない。そのまま押すんだ。リゲイン発動。傷を負った狩人は、間を置かずに敵の返り血を浴びる事で自らの血とする。攻めは最大の防御。
獣のギアが入る。だが俺は逃げない。構わず踏み込む。
何だ、こいつ隙だらけじゃねぇか。攻撃と攻撃の間隔が長い。俺は今まで距離を取り続けて自ら攻撃のチャンスをふいにしていたわけだ。チャンスの時だけ攻撃する、というのは理にかなっているように見えた。だけど、違った。チャンスは待って得るものではなく、自分で作るものなんだ。
腕を執拗に攻撃し続けると獣は跪いた。ようやく鉈が届く位置に頭を下げてくれたな。踏み込んで、内臓攻撃。頭に内臓はないけど内臓攻撃は内臓攻撃なのだから仕方ない。
次第に血に染まっていく獣。絶え間なく咆哮するようになる。もう何段階ギアが入ってるか分からないが、別にそんな事気にする必要はない。ただ俺の戦い方を貫くだけだ。
しかし残りの輸血パックはあと僅か。獣は左手を地面に食い込ませた。あれが来る。踏み込むか?いや、ただ思考停止に攻め続けるのは逃げ続けるのと同じくらい馬鹿のする事だ。大事なのは、攻めて、死なない事だ。
バックステップ連打で大きく間合いを取る。ラッシュが終わったところを見計らって再び攻め込む。獣も攻撃してくるが気にしない。それはリゲインの範疇だ。踏み込む。踏み込む。踏み込む。
相手は瀕死状態。こちらはほぼ無傷。まだ輸血もある。
あ、ジャンプした。そう言えば、ずっとこれを待っていたんだっけ。なぁ俺、前か後ろ、どっちに避ける?決まってる。前はまだ未知数。避けられる可能性が高いと分かってる後ろだ。
地上に帰ってきた獣を、たっぷり力を込めた溜め攻撃でお出迎え。フィニッシュ。大量の血を残して獣は粒子となった。
ありがとな。聖職者の獣。どこの聖職者かは知らないけど。ようやく分かったよ。やられる前に、やる。それが狩人のあるべき姿勢なんだ。
今日はここまで。