突き抜けるだけではダメ




2015-02-08-03-31-07


PS3とXbox360のアクションゲーム。開発はサイバーコネクトツー。

これ、凄いな。何が凄いって、ひたすらムービーに次ぐムービーの波状攻撃でゲーム内容の7割がムービーで占められていると言っても過言ではなく、その合間に申し訳ない程度にプレイヤーが操作できるアクションパートが挟まるがそれもただ敵を倒すだけで遊びの幅は一切なく、戦闘にしてもQTEで左右されるところが大きいのでやらされてる感が強く、要するにゲーム部分がオマケとしか感じられない。一応アクションゲームというジャンルであるが実態は映像を眺めて話を追うだけ。普通のアクションゲームを基準に考えて採点すれば最底辺のゲームだ。
しかし、主人公の怒りを体現したドラマ、という側面から見れば、このゲームは突如として唯一無二の作品に変貌するのだから面白い。このゲームのコンセプトは主人公の怒りを体現することであり、それがアスラズラースの全て。

とにかく全編通して主人公は怒りっぱなし。主人公が怒りの化身の阿修羅をモチーフとしたキャラであることを除いても、娘を誘拐され、妻を殺され、仲間に裏切られ・・・と、ブチ切れさせるようなイベントが矢継ぎ早に起こるのだから無理もない。このゲームがアクションとムービーだけで構成されてるのも、主人公と同じようにプレイヤーにクールダウンする隙を与えず、ひたすら熱を積み上げてボルテージを上げさせるためだ。
アクションの狙いも極めて明快。敵を倒すのではなく、怒りゲージを溜めて必殺技を発動すればそこで決着がつく。主人公の怒りをプレイヤーに実感させつつ、トドメの演出で終わることでカッコよく決まっている。アクションとしての楽しみは薄いが、これもあくまで主人公とプレイヤーを同調させるためのファクターでしかない。
そしてムービーがもうやり過ぎでハチャメチャで凄い。一心不乱に勢いだけで突っ走っていて何が何だか分からんけどとにかくデカいし派手だし凄い。そのスケールがそのまま主人公の怒りの大きさに繋がっているのだから演出としては申し分ない。
いやぁ突き抜けてるわぁこれ。アクションゲームとして楽しませる気は毛頭感じられないが、スタッフからしてみればそんなこと知ったことではないだろう。本作は主人公の怒ラマを体験するという一点を目指して作られているのだから。

このゲームが凄いのは、一切の妥協がないところにある。
「売れなかったらどうしよう」「コンセプトが受け入れられなかったらどうしよう」「もっと間口を広くした方がいいかな」そういった迷いが全く見えない。ブレることなく、自分たちの突き進む道を信じ抜いているのがよく分かる。全員に受け入れられなくても良い。誰かの心に残れば良い。そう割り切っている。ゲームの体裁や常識に縛られず、万人に合わせて無難にまとめることもなく、このゲームのコンセプトを最も輝かせるにはどうすればいいか、ただそれだけを考えて作られている。
ムービーだらけの構成。詰め込みまくったQTE。浅すぎるアクション。ほぼ皆無な自由度とやり込み。薄いボリューム。ネットで評判がすぐに出回るこの時代に、ここまでユーザーに嫌われそうなゲームを作り上げるとは。だが、それは決して手抜きなどではない。批判を恐れずに全力でテーマを突き詰めた結果がこの形なのだ。これがこのゲームの正解だ。全力でモノを作るというのはこういうことだよ。その一途な思いがこのゲームにパワーを与えている。主人公の怒りに迫真性を与えているのは間違いなくそこだ。

しかし、このゲームには致命的は欠点がある。殆どをプレイアブル性の薄いムービーで構成しなおかつキャラとユーザーの一体感を大事にするという二律背反を取ったゲームでありながら、その橋渡し役である重要な要素、QTEの扱いにセンスの欠片も感じられないことだ。
QTEを最も効果的に使っているゲームはゴッドオブウォーだが、例えばあれは、カメラの流れとアクションの向きを合致して更にその動線に合わせてボタンが表示され、プレイヤーの視線とシンクロさせていたため、キャラクターとの一体感が高まっていた。主人公のキャラが力感溢れているというのも大きな要因であるが、ムービーとQTEを一緒に考えて作られていたからこそゴッドオブウォーのQTEは活きていた。対して他のゲームのQTEがやらされている感じが強いのは、単にあらかじめ作られたムービーに後付けでボタン表示を施しているからだ。
で、このゲームもまさにそれなんだな。真ん中にボタンが現れて押すだけものが多く、カメラワークやアクションとQTEが全く噛み合っていない。どうすれば眺めているだけのムービーでキャラとの一体感を出せるか、という部分において、ただムービーに合わせてボタンを押させるだけという、何とも奥行きのない貧相な考えで終わっている。いやぁ、別に普通のゲームなら何となく操作してる感じを出すために何となくQTEを使うで良いけどさ、このゲームは殆どムービーで構築されているんだから、その作りでキャラとの一体感を大事にしたいならQTEは外せないだろと。何となくじゃダメだろと。
これではただ作業的にボタンを押しているだけ。ムービーは迫力があるのにQTEが上手く入ってこないせいでボタンを押す指に力がこもらない。せっかく妥協なくゲームデザインを突き詰めているのに勿体無さすぎる。残念なことにこのゲームはムービーゲーの域を出ていないと言わざるを得ない。
ところがDLCの第4章ではQTEがとてもセンス良く組み込まれているのだから不思議だ。この章は凄く良かった。スムーズに主人公の熱が伝わってきた。特にラスボスのQTE合戦は熱すぎる。それだけに何で本編ではこれが出来なかったんだろうと益々疑問に思う。

こういうゲームが作りたいんだ!というスタッフのエゴが全面に出た尖ったゲームはパワーに満ちていてとても良いものだが、それだけではダメだなとも気付かされる。コンセプトをどう表現するかという部分でセンスを求められるが、このゲームはそれが欠けていると言わざるを得ない。
やっぱりQTEがねぇ。このゲームにおけるQTEの役割はとても大きいものがあるのに、本編はちょっと工夫がなさすぎるね。もっと上手く活用してくれよと言わざるを得ない。DLCでは上手くやってるのになぁ。おかしな話だよなぁ。