格が違う




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PS3とXbox360のアクションゲーム。開発はロックスターノース。

凄い。何が凄いって、作り込まれたオープンワールドが凄い。使い回しは一切なく全て手作業で作られているらしいが、その成果は存分に発揮されていると言って良い。
何しろ目に映るもの全てが新しく、どこを切り取っても既視感がない。一区画毎に違う特色が垣間見え、曲がり角をまがれば全く違う景色が顔を覗かせるフィールドの作りには感動した。
オープンワールドは、とにかく物量とボリュームが重視されるだけに、建物やオブジェクトは素材の使い回しで済まされていることが多く、それ故に均一化された景色になりがちでしょせんはテンプレートの集合体という域を出なかったが、GTA5はついにそこから抜け出している。隅から隅まで、オブジェクトの配置一つ取っても、徹底的に拘りを持って作られていることが良く分かる。
特筆すべきは圧倒的な広大さ。単純にマップが広いというだけではない。遥か遠くの景色まで見渡せるグラフィック能力。立体構造を意識した遠近感のあるオブジェクトの配置。
これらにより、全ての光景に奥行きのある広がりを感じられる。特に山の頂上から見下ろした時に眼前に広がる風景は圧巻の一言。今まで数多のゲームをプレイしてきたが、フィールドのスケールは他のゲームの比にならない。まさに格が違う。
確かに、遊びとして見るとこのゲームのフィールドは物足りないのは事実。スカイリムのように多くの建物に入れないし、アサシンクリードのようにアクロバティックなアクションで街中を走り回れないし、バイオショックのように世界観に特徴的なものが存在するわけでもないし、メタルギアのように遊び心があるわけでも、ダークソウルのように面白いギミックが散りばめられているわけでもなく、ゼルダの伝説のようにワクワクする発見があるわけでもない。散策しても得られる実利的なものはなにもなく、あるのは虚無の体験だけ。
だが、このゲームほど、「そこにいる」という感覚が明確に得られるフィールドは他にない。等身大の臨場感がそこにある。歩いているだけで楽しいとはまさしくこのこと。
行為自体に何か意味を見出してくれるような見返りは殆ど用意されていないが、目的が希薄だからこそ、強迫観念に縛られずアテのない遊び方に専念できる。
街をゆっくり歩き回っても良い。人を虐殺しても良い。車を暴走させても良い。飛行機で上空を飛び回っても良い。適当に高いところに登ってスカイダイビングしても良い。山道の脇に車を停めて風景に見惚れても良い。目的に縛られることなく自由に後腐れなく遊び回るのがこれほど楽しいとは。
実利的に得られるものは何もなくても、ただの自己満足でしかないとしても、体験の一つ一つにドラマがある。全ての行動が絵になる。攻略するという意味合いで底が浅いのは否定できないが、GTAはこれで良いのだろう。

ゲームとしてはいつも通り。目的地まで移動してミッションをこなすだけだが、バリエーションは豊富だし、ヘリを使ったり潜水艦を使ったりと大掛かりなものが多くて面白い。
また、節目節目に強盗ミッションが挟まるのだが、アプローチ方法を決めたり、事前準備として色々用意をしたりして、周到に計画を進めていく感じが良かった。
今作はミッションをクリアーしても金が貰えないことが多いが、その分強盗ミッションのクリアー時に桁外れの報酬金が手に入るので爽快。アメリカンドリームを体現しているようで素晴らしい。散財する術が乗り物や不動産を買うくらいしかないのは残念だけど。
ストーリーも良い。主人公を始め、登場するキャラクターがどいつもこいつもクズ揃いで高潔なんぞ糞食らえという堕落しきった雰囲気が堪らない。
破壊願望や金欲といった煩悩にまみれたストーリー展開は、GTAらしい爽快感を醸し出していて痛快だし、明らかにFBIやCIAを意識した組織の傍若無人な振る舞いはアメリカの体制を多いに皮肉っていて実に愉快。クライマックスに訪れる、散々こき使ってきた者へのアメリカ的倍返しはスカッと心を晴れやかにしてくれる。
GTAには珍しい家族と子供の存在も良いアクセントとなっており、おかげでただ向こう見ずに突っ走るだけのストーリーにならず、戦うことの意味、引くことの意味を感じさせる内容に上手く昇華していた。

主人公となるのは、マイケル、トレバー、フランクリンの三人。
マイケルは妻子持ちのメタボで家族から邪険に扱われ常に自虐が口癖になっているのが哀愁を漂わせているし、トレバーは人格破綻が行きすぎて何をやらかすか分からないし、フランクリンは普通のナイスガイだった。
家族のために強盗から足を洗ったマイケルと、強盗行為が大好きな人格破綻者トレバーによる掛け合いは一々面白い。
意外と頭がキレるトレバーにマイケルの秘密が暴かれそうになる展開もハラハラする。その二人に比べてフランクリンはあまり個性を感じないが、まとめ役と考えればこれぐらいで丁度良い。
終始意見が食い違う三人だが、それだけに最後の終わり方は異常な爽やかさに包まれていて良かった。おっさん達の青春という感じだ。その分かち合いが強盗というのは人としてどうかと思うが、本人達は凄く楽しそうで何よりだった。
今作の特徴は、何と言ってもその三人の主人公をゲーム中、一部の場面を除いて自由に切り替えられること。主人公同士が協力して挑むミッションも用意されており、役割に応じて切り替えながらこなすことができる。
演出にハマっている側面が強いので、このタイミングで切り替えたら有利になるとかはあまりなく、攻略の自由度や奥深さを増す効果は感じられなかったが、三人それぞれのアプローチから挑めるので単純にバリエーションが増してるし、一緒に協力している感がありそれぞれのキャラへの感情移入を容易にしていると共に、三人の絆を深いものとしている。

GTAの醍醐味である警察との戯れは大幅にパワーアップ。
特に大きいのが警察の索敵における仕様変更。前作は一定の範囲内に近付いたら問答無用で発見された扱いとなったが、今作は警察の索敵に視覚の概念が追加され、物陰に隠れたりすることでやりすごすことができるようになり、警察との戯れが更に楽しくなった。
今回は戦闘機や戦車で応戦することもできるし、ド派手な攻防戦が楽しめる。

欠点は吹き替えに対応していないこと。主に会話は移動中に行われるが、運転しながら下の字幕を見ろという無理難題を突き付けてくる。
会話の内容が面白いだけに残念と言わざる得ない。7割は無意味な皮肉で占められており、言い回しがセンスに溢れていて一々笑えるが、字幕を追ってる暇はないわ誰が言ってるのか分からないわでかなりイライラさせられる。
もっとあり得なかったのは、クリアーしたミッションのリトライプレイを導入していながら、マルチエンディングに関わる最後のミッションはやり直しても選択肢の変更ができないこと。違うエンディングを見るにはもう一度最初からゲームを始めるしかないとかふざけてる。かなり興味をそそられる選択肢だったので他のエンディングも凄く気になるのに、この嫌がらせは酷い。
そして、敢えて言うがやはり飽きやすい。攻略的な深みは一切ないうえに、行動に対する見返りも少ない。金が手に入ったところで用途は限られているし、行動に応じてスキルアップしたりもするが明確な変化は感じられないので成長要素はなきに等しい。探索しても入れる建物は殆どなければ、アイテムが落ちているわけでもない。
モチベーションを維持させる為の工夫はとことん無視されているので一旦飽きるともうどうにもならない。クリアーした途端にどうでも良くなってしまった。40時間しっかり楽しめたから充分満足したけど。

作り込みが凄くて、ストーリーが面白くて、ゲームとしての底は浅いという、要するにいつものGTAでそれ以上のものはない。
ゲーム性の薄さを圧倒的な物量と映像とスケールによる臨場感でカバーするやり方は、海外産ゲームの典型的な手法で、俺はこのタイプのものがあまり好きではないが、ここまでその方向性を突き詰められると参ったと言わざるを得ない。フィールドを重視した体験ゲームとしては究極の出来だろう。王者の風格すら漂っている。
海外のゲームに親しんでいる人は絶対にやるべきだが、そうでない人はやるべきでない。分かりやすくて素晴らしい。