映画でやれ




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PS3のアドベンチャーゲーム。開発はQuantic Dream。

ストーリーを軸に置いたゲーム作りが特徴であるQuantic Dreamの最新作。
同社の作品はストーリー以外の切り捨てっぷりが半端じゃなく、ゲーム内容はほぼ指示されたボタンを押すだけの繰り返しで、冷静に考えてこれはゲームとして酷いとしか言いようがないしそこまでしてストーリーを見せたいなら映画でやってろと言いたくなるが、キャラクターとの一体感を得られるゲーム媒体の利点を活かした作りは秀逸。
前作のヘビーレインはボタン一つで済みそうなキャラクターの操作を逐一求めてきて、髭を剃る腕の動きやオレンジジュースの蓋を回す指の動作、指を台に置いてノコギリを手に取りそれで指を切断する一連の動きなど、細かくボタン表示が介入してその通りに押していくことで、本当にどうでも良いところまで動かせ、キャラとの一体感があった。
ゲームオーバーは存在しないし攻略するという意味でのゲーム的な要素は微塵も存在しなかったが、傍観者になりがちなゲーム内容を無駄なインタラクティブ性で補っていたのと同時に、キャラへの没入感を高め、結果としてストーリーに引き込まれる形へと繋がっていた前作は、ゲームである意義が充分存在していたと言える。

で、今作。Quantic Dreamが推し進めるストーリー主導型ゲームへの追求はとどまることを知らないようだ。
とりあえず映像がハイクオリティ。ムラはあるが主要人物のグラフィックは次世代機レベル。更にその登場人物を演じているのが実在する結構有名どころなハリウッド俳優というのも凄い。モーションもかなりリアルで迫ってくるものがある。実写さながらの映像で実際の役者が演技しているのだからつまるところこれは映画だ。
しかしそのためか、本作は前作以上にゲーム的な部分が削ぎ落とされている。一番大きいのが操作のインタラクティブ性が激しく低下したこと。操作はかなり簡易化され、前作のようなこんなところまで動かせるのか感は全くなかった。恐らく現実的な空間を阻害するボタン表示を極力取り除きたかったのだろう。
逆に大幅に増えたのがQTE。もちろんこれもボタン表示は存在せず、キャラのモーションから入力するキーを判断しなければならないのだが、曖昧なシーンが多いせいでどのキーを入力すれば良いのか分からず何度も失敗させられた。まぁ別に失敗したところで話は進むから良いんだけど、気持ちの良いものではない。
今作もゲームオーバーはなく、行動が遅かったりミスをしたりしてもそれに対応したムービーが挟まるのみで何の支障もなしに話は進む。成否や選択肢によってムービーは変わるがそれによってストーリーが分岐することは稀で、そうなったとしてもちょっと話が変化する程度だし、あとのシーンと分岐の結果が噛み合ってないことがあったりもするし、本当にいい加減。ただ安易にゲームとしての体を取り繕っているだけな気がしてならない。
一応特徴となるシステムはある。それが壁をすり抜けたりオブジェクトを動かしたり敵を操れたりなどの素晴らしいスペックを誇る霊魂を操作できること。自由に暴れ回れたらさぞ楽しいだろうが、結局できるのは一部の指定されたものを弄れるだけで、やらされている感が半端じゃない。主人公の操作に関しても目標のポイントを探してそこで特定のキー入力を行うだけ。
要するにゲーム部分は、指定の場所で指示されたボタンを押すだけの、考える必要がまるでない超絶作業ゲー。自分のプレイそのものが演出になるのではなく、あらかじめ用意された演出に沿うようにとプレイを誘導されている感じが極めて強い。
海外のゲームは大概が主人公になりきるごっこ演出ゲーだが、ここまでその方向性を極端かつ強引に推し進めているゲームは初めてだ。

で、こうまでして物語に力を入れているのだから話の出来は相当良いのかと思いきや、これが結構酷い。
まず、ストーリーの時間軸が前後して展開されるのが意味不明。ジョディ・ホームズという、霊魂の力が宿った特別な少女の8歳から23歳までの15年間のハイライトを見ていく物語なのだが、話が脈絡なく飛んだり戻ったりして非常に混乱させられる。何があって彼女はこうなったのかと興味を惹かせるためなのだろうが、展開の仕方も一貫性がなく本当にバラバラだし、単純に分かりにくいだけで良い方向に働いているとは言い難い。
次にプロットにまとまりがない。話の筋が枝分かれしすぎており、一体どこを中心に据えているのか分からない。格の部分が弱いからどの話も薄っぺらく見える。明らかに必要ないだろってチャプターも散見され、その部分に限って長かったり、逆に物語のキーとなるチャプターは短かったりと、尺の取り方もおかしい。
そして突っ込みどころがありすぎ。ネタバレになるので控えるが、よくもまぁこれほど突っ込みがいのある話を作れるなと感心する。終盤になるにつれ加速度的に苦笑いしか浮かばないようなテイストに満ちていた。
また本作はマルチエンディングが採用されておりそれはゲームだからこそ出来る仕組みではあるが、俺が見たエンドはマルチエンディング特有の無理矢理オチを付けたような終わり方でガックリきた。違うエンディングを見ようにもムービーが一切飛ばせないのでやる気にもなれない。恐らくQTEがひっきりなしに入るからだろうけど、また10時間近くやり直せとかふざけるなと言いたい。

結局、ストーリーはあまり褒められたものではないのだが、これを改善する方法は至極明快。話の中心を一つに絞り、水増しとしか思えない余計な話はカットし、テンポが悪くなるだけの作業じみた操作部分は全部排除して、エンディングも一つにまとめた、二時間くらいの映画にすれば良い。そうすればまとまりのある良い物語になるだろう。
皮肉でも何でもなく、要するに映画でやれってこった。そこまでしてストーリーを見せたいなら何もゲームでやる必要はない。本作はゲームである必要が殆ど感じられず、逆に無理してゲームの体を成そうとしているところ、例えばゲームとして最低限求められるボリュームを出そうとしたり操作でテンポが悪くなっている部分だったりマルチエンディング制度が、ウリであるストーリーを明らかに邪魔しているのだから。

このゲームの最大の誤ちは、ゲームで究極の映画的なストーリー主導作品を作ろうとする意識が強すぎたことなのは明白。本物の俳優、リアリティのあるグラフィック、演技を伝えるモーションキャプチャー、SCEからの潤沢な資金。映画に迫る作品を作る舞台は充分整っていたことだろう。
だが、しょせんゲームはゲームであり、どこまでいっても映画には敵わない部分があることを忘れてはならない。畑違いの領域で他方のベクトルを突き詰めるなんてことは絶対に不可能だし、やったとしても中途半端にしかならない。ゲームにはゲームにしかできないアプローチがあるのだから、その方面からストーリー主導の方向性を追い求めていくべきだった。このゲームが本当に大事にすべきことは、俳優でもなく、グラフィックでもなく、モーションでもなく、ゲームのシステムとストーリーをリンクさせることだ。しかし残念なことにそこには殆ど目が向けられていない。
唯一その一端が見えるのは霊体を操作してジョディを虐めた連中を復讐するシーン。ジョディに対する強い想いをそのままぶつけている感じがあって上手く感情移入に働いていた。ジョディと霊体の絆が物語の重要なドラマだけにこの点だけはゲームの特性を活用している。しかしやはり、プレイヤーの思うがままめちゃくちゃに暴れ回れたら良いのになと思わずにはいられない。結局青のポインタで記された部分しか霊体を突撃させられないので、やらされている感は強い。

たとえゲーム媒体でやる意味が限りなく薄いものであったとしても、たった一つでもゲームとして光る部分があれば、それだけでゲームである意義が存在すると言えたが、それが全くないのだからもう映画でやってろとしか言いようがない。
映画のような作品を目指しながらゲームの形にまとめようとした結果、中途半端な産物になってしまったのが本作。これがヘビーレインを作った会社の新作というのはあまりにも残念な結果だ。