見せかけの世界




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PS3のアドベンチャーゲーム。開発はSCEとアクワイア。

姿を失ってしまった子供たち。雨が降り続ける夜の街。雨のみが照らし出す透明な世界。
題材は面白いよね。実際、その世界観が作り上げる雰囲気とビジュアルは魅力に満ちており、雨とひと気のない寂しい街並みのコントラストは何となくムードがあるし、その薄暗い街中を透明になってしまった少年と少女が彷徨い歩いている光景はまさに迷子という感じで子供たちが異世界に迷い込んでしまった様子がとても良く伝わってくる。
ゲームとしては怪物との隠れんぼ。この世界には子供たちだけでなく透明な怪物たちが闊歩しており見つかると容赦なく攻撃してくる。少年少女はステルス機能を標準で備えているとは言え、雨に当たると姿が浮かび上がり見つかってしまうため、雨宿りできる場所に隠れながら進んでいくというのが基本的な流れとなる。水たまりの音で怪物をおびき寄せたり、泥水に触れると姿が映し出されてしまったりと、雨の世界観を存分にゲームの仕掛けとして使っているのは良いアイディア。世界観とシステムがシームレスにリンクし、嘘のないリアリティのある世界を築き上げている。雰囲気ゲーとしてこの点は評価高い。

それだけにもったいない。題材も良い。映像の絵作りも印象的。システムも設定と繋がっていて没入度は高い。だけど肝心な部分が足りてない。
とにかくストーリー的には透明である必要性がまったくなーんにも感じられないのが致命的。序盤に透明で見えないことによる少年と少女のすれ違いがあるだけ。透明人間の設定で美味しい部分である、「見えないけど見えるもの」という要素をまるで使わず本当に普通の話だった。雨によってのみ姿が照らし出されるという魅力的な仕掛けも映像の見た目以外何も活かされていない。雨のせいで敵に見つかり襲われる、だけど雨がなければ姿が失われてしまう。その葛藤を描いて欲しかった。
そして語りすぎ。ところどころ文字での解説が入るのだがこれが野暮でしかない。そこはプレイヤーに感じ取らせろよという場面まで詳しく解説をしてくれてハンパじゃないほど興醒めする。伝わらないのが怖いのは分かるが、言葉が通じ合わない少年と少女の意思疎通もドラマの一つなのだから、それを表現するためには余計な言葉は必要ない。

いくらでも話を膨らませられそうな世界観を構築していながらここまでそれを殺しているのはある意味凄い。確かにこの設定が醸し出す映像の雰囲気はかなり魅力的だが、そこから伝わるエモーションは何もない。透明、雨、敵の存在、あらゆる要素に必然性が感じられず、見せかけの世界でしかなかった。バックボーンが弱すぎる。アイディアだけで突っ走っているのが見て取れる。
雨が映し出す透明な世界というコンセプトは本当に面白いだけに、もったいないとしか言いようがない。残念。