逆転裁判の夜明け




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3DSのアドベンチャーゲーム。開発はカプコン。

長い長いインターバルを置いてようやく発売されたシリーズ最新作。前作の逆転裁判4はシリーズ最高の売り上げを記録したのに何故長らく止まっていたのかと言うと、設定の方向転換があまりにも急なのに掘り下げが未熟だったから。
3で一旦話の区切りが付き、新章としてスタートした逆転裁判4では、それまで主人公であったナルホドウからオドロキホウスケにその座が与えられ、大きな方向転換が図られることとなる。ターニングポイントとなったのはナルホドウの急激なキャラ変化で、これまでの作品で見せてきた、ちょっと抜けているが大らかで正義感の熱い男、とは全く印象が違う性格に突然変異しており、この世の理を全て見てきたような達観した師匠キャラに変貌していた。
俺としては4が初の逆転裁判シリーズだったので初見時は何とも思わなかったが、1~3をやり終わったあとに振り返ると確かにあのナルホドウは違和感しかない。キャラゲーとしての側面が強いこのシリーズにおいて、この安易なキャラ変更は大きなブーイングを浴び、それが響いてかシリーズはストップし、スピンオフタイトルの逆転検事シリーズでお茶を濁し続けてきた。
一つ言っておくと、ナルホドウのキャラ変更自体は面白い試みではあるんだよね。それまでの主人公が弁護士を辞めて性格も変わって登場するというのはインパクトがあるし、伝説の弁護士という役割で見ればあの雰囲気も間違ってはいない。ただ、あまりにもやり方が安易だった。話の中で、1~3までのナルホドウを変えてしまった何かが適当にしか描かれておらず、大事な過程をいい加減なままにしてキャラだけ大変更をかけられてもそりゃ納得できない。しかも作品の屋台骨を常に支えていたナルホドウ君がこんな雑な扱いを受ければ文句の一つも言いたくなる。
結果として逆転裁判4は最高の売り上げを記録しながらシリーズに大きな傷を付けてしまったわけだが、この状況を打開する為にスタッフが取った手段は、あえて4を無かった事にせず、徹底的にそれと向き合う事だった。

今作の弁護士は3人。4の主人公であるオドロキ、新登場のキヅキココネ、そして帰ってきたナルホドウ。逆転裁判は個別の事件の中にキャラのストーリーを絡めていくのが特徴であるが、5は今まで以上にその側面が強く、新キャラであるキヅキ弁護士やユガミ検事のストーリーを軸としながら、オドロキ君の「大丈夫です!」という口癖の由来や、ナルホドウの弁護士剥奪がキッカケとなって始まった法曹界の暗黒時代なども絡めて、ちゃんと前作の流れを踏襲しているのがまず素晴らしい。黒歴史である4から逃げずにちゃんとストーリーを繋げている。
唐突にナルホドウが弁護士に復活したことで無意味と化しそうだった前作の弁護士剥奪問題も、それがキッカケで法曹界の暗黒と呼ばれる悪しき風潮が法廷に蔓延したとする事で意味を見出しているのは上手い。だけでなく、それによって格段にストーリーに深みがもたらされている。
証拠の捏造が横行し真相よりも裁判の結果を第一に求める風潮、いわゆる法曹界の暗黒が強く根付いてしまった法廷の中にあって「依頼人を信じて信じて最後まで信じ抜く」という弁護士の原点に立ち返って戦うナルホドウ達の姿を通し、弁護士とは何か、検事とは何か、裁判とは何か、という突き詰めた内容を恥ずかしくなるくらい熱く理想的に語っている。それは少年アニメ的な暑苦しさを醸し出しているが、強い信念によって理想が現実を打ち破る物語はいつだって夢と希望に満ちていて美しい。4の流れを引き継ぐ為の後付け設定ではあるが、それをここまで膨らませて裁判や弁護士の本質にまで結び付けているのは凄い。
ただ、弁護士・検事がタッグを組んで真犯人をフルボッコにする終盤の展開はあまり納得できなかった。検事の仕事は「警察の調査を信用し、起訴された被告人を徹底的に追い詰めること」と言っていたくせに、やってる事は違うじゃんと思った。そいつを真犯人とする根拠がまた強引だから余計にそう感じられる。
強引なのはメインストーリーも同じで、キヅキ弁護士とユガミ検事の関係は本当に強引だった。たったそれだけの関係なのにそこまでするかぁと思わずにはいられない。
まぁ強引な展開は逆転裁判お馴染みではあるんだけどね。それを踏まえても、序盤から巧妙に伏線を張って最後まで興味をそそる見せ場を作りながら話を繋げていく起伏のある展開は見事だし、シリーズのミソである登場人物のキャラ立ちも相変わらずユニークで面白く、キャラのモデリングが3Dになったことで今まで以上に良く動くようになりその動きだけでキャラを表現しているのだから凄い。ストーリー自体は納得できない部分も多いが、珍妙なキャラによるポップな掛け合いと起伏のある展開で最後までプレイヤーを飽きさせない。それに加えて今作は上で述べた裁判の本質にまで踏み込んでいるのでカタルシスは今まで以上に強い。
極め付けは、ナルホドウの宿敵であるミツルギ検事の登場。ナルホドウとミツルギが裁判で対峙する場面はファンが長年待ちわびた瞬間である。伝説の弁護士、方や検事局長と、彼らが新米だった初代からシリーズ通してプレイしてきた俺としては、二人とも成長したなぁ・・・としみじみ感慨深かった。
そして、気になるナルホドウのキャラは大幅に変更がなされており、上手い具合に垢抜けて頼れるお兄さん的な感じになっていた。4ほど達観しているわけでも、1~3ほどお気楽な感じもなく、丁度その中間ぐらい。ナルホドウ君らしいお茶目さを兼ね備えながら、前作からの肩書きである伝説の弁護士としての風格も崩さないバランスは見事。

とにかく、今作はシリーズの繋がりという意味では本当にきめ細かに作られている。今までの流れをぶった切った4から相当見直しているのが良く分かる。そんな黒歴史でしかない4も安易に無かった事にはせず、ちゃんと向き合っているのが今作の素晴らしいところで、全く練り込みが足りなかった前作の設定を今作で引き継いだ上に補強して、オドロキの成長も描き、その上で逆転裁判らしい魅力はそのままに、今まであまり触れてこなかった裁判や弁護士の本質を話の見せ場に持ってくるストーリーは見事という他ない。軸となるオリジナルキャラのストーリーは弱いし、感情を読み取る新システムもピンと来ないけど、それを補って余りある仕事をしている。
4によって良く分からない方向へ走り始めていた逆転裁判であるが、本作は見事にズレていた軌道を修正し、本当の意味でシリーズは新たなスタートを切ることが出来た。シリーズのファンとして、逆転裁判の見事な復活を喜びたい。