勧善懲悪じゃない




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“昼寝から目を覚ましたドラえもんは、常に欠かさず首もとに付けていた鈴が、なくなっている事に気が付いた。
なくなった鈴に何故か異常な執着心を示しているドラえもんの様子を見たのび太は、ひみつ道具のシャーロックホームズセットを使って調査を始める。
その結果、ドラえもんの鈴は未来に存在する「ひみつ道具博物館」の中にあることが分かった。そこは、ありとあらゆるひみつ道具が展示されている場所だった。
ドラえもんの鈴を取り戻すため、のび太たちはひみつ道具博物館へ訪れることになる。”

率直に言って、近年のオリジナルドラ映画の中では疑う余地なく一番の出来栄え。メッセージ性とストーリーのバランス、ガジェットの動かし方、飽きさせない工夫、展開の上手さ、全てが高いレベルでまとまっている。

まず、今作の内容はいつものドラ映画の方式と全く違う。これまでは、分かりやすい敵役が分かりやすい悪事を働いていてのび太たちがそれに立ち向かうという、超が付くほど分かりすい勧善懲悪ものが殆どだったと思うが、今回はその縛りが取っ払われていることで様々な部分からかなりチャレンジしている様子が見受けられる。
おかげで展開があまり読めなかった。この映画はミステリーが題材であるため、その意外性が存分に効果として発揮されており、これまでの常識が全く通用せずかなり騙されてしまった。かと言って、今までのパターンから逸脱した意外性のみに頼ったミステリーではなく、伏線の張り方や思わせ振りな雰囲気の演出など中々巧妙で良く考えられている。

更に見所は舞台となるひみつ道具博物館。凄まじい種類のひみつ道具が出てきて興奮せざるを得なかった。
従来のドラ映画では要所要所に道具を使うぐらいであくまで活躍するのはのび太たち本人という見せ方だったが、今回は道具が主役と言っても過言ではないほど存分にフィーチャーされているのでひみつ道具好きには堪らないものとなっている。しかも今まで謎に包まれていたひみつ道具のルーツにまで迫られているのでとてもワクワクする。
アクションやトリックの面でも、愉快なアイディアでひみつ道具が使われていて、本来の使用用途以外にも使い道があるんだなぁと感じさせてくれる発想の転換が面白かった。

そしてストーリー。これが結構良かった。ミステリーとして面白いのは最初に言った通りだが、情緒的な側面でも刺激される部分がある。
印象深かったのはこの映画のオリジナルキャラクターであるクルトの存在。周りから馬鹿にされても、才能がなくても、失敗ばかりでも、好きだからという一点の気持ちだけでひみつ道具作りを諦めない彼の姿からは、大事なのは技術でもセンスでもなく自分の心だよという、
少年アニメらしい単純で馬鹿馬鹿しくて夢みたいで、でもとても勇気と希望に満ちたメッセージが伝わってくる。始めは使い物にならないとしてポンコツ扱いされた彼の創作ひみつ道具が、終盤で思わぬ活躍した時は少しグッと来た。どんなものにだって使い道はあるんだよな。
何より、ドラえもんの最後の言葉が良い。どんなに欠点や負の面があっても、たった一つでも光る部分があれば、その人はそれだけで価値があるんだよという意味合いで、当たり前だけど当たり前すぎて中々気が付かない所を付いてきて心に響いた。
結局これらはどれもベタで有り触れたメッセージではあるけど、本質を付いているからこそ、王道は王道であるのだなと改めて思い知った。安易な王道は冷めるだけだが、計算に計算を重ねて作られた王道は人を感動させる。

勧善懲悪ものではないが、決して難解な話ではなく、とても明快な結末に終結するのでメインの年齢層は外してない。ミステリーも無駄な難解さはないので小さい子でも楽しめる。ギャグも分かりやすいギャグとシュールなギャグの二種類が詰め込まれていて全年齢対応。ドラえもんが長身長足になって暴れ回ってたのは笑った。
あらゆる意味で見所満載で、感動があり、意外性もあり、それでいて王道で、しかも近年の中ではケタ違いのクオリティを誇っているという、ドラえもん好きなら絶対に観るべき作品。
甥っ子の付き添いで観に行っただけだが、予想外という言葉で言い表しては失礼なほど、良い映画だった。