中途半端に媚びてる






PS3のアクションゲーム。開発はプラチナゲームズ。

あのプラチナゲームズがメタルギアを作るとは不思議な事もあったんもんだね。
プラチナゲームズと言えば元はカプコンのクローバースタジオのメインスタッフがスタジオ解散に伴い「会社に縛られずに俺らで好きなゲームを作るんだい」という目的で独立し、クローバーの頃からも趣味的なゲーム作りは一貫としていたが独立してから更にその傾向は強まり、要するに新しいアイディアで挑戦したいという意気込みを持つ野心的なスタッフが集まった開発メーカーなんだが、
そのプラチナゲームズが、まさか他社のブランド作品、しかもメタルギアという小島監督の個性が極めて強く出ているシリーズを外伝とは言え手掛けることになるとはちょっと驚いたというか、端的に言うと嫌な予感しかしねぇ。
とは言え体験版はすこぶる面白かったのでかなり期待して買ったんだが、うん、これはあれだね。かなり媚びてるね。まさかあれだけ自我の強いプラチナが、ゲーム性を犠牲にしてまで媚びてくるとは思わなかった。このゲームは明らかにメタルギアである事が足枷になっている。

メタルギアライジングはステルスゲーとして有名なメタルギアシリーズの一環として作られた作品であるが、刀アクションが得意な雷電を主役としたゲームとなっており、中身は普通に良くある一本道系のアクションゲーム。
一本道アクションゲームは、どんどん敵が現れてどんどん仕掛けが動いてどんどん派手なアトラクションが起こって、というジェットコースター的な勢いが没入感を生み出すのだが、とにかくこのゲームはステージの構造や演出がクソつまらない。いやプロローグ部分だけは外連味たっぷりな常にクライマックス状態で良かったが、それ以降が本当に味気ない。
このゲームのマップはアトラクションや仕掛けよりも、メタルギアである必然性を出す為にステルスプレイが出来るようなレベルデザインを重視して作られているので、展開に起伏が少なくて地味なんだよね。更に、ステルスの余地を生み出す為かステージの構造が横に広いので一直線に突き進む感じではなく、テンポが悪い。背景も同じようなものばかり続くから退屈。
それでもステルスが面白ければ何の問題もないのだが、敵の視覚範囲や感知は極めていい加減だし、そもそもステルス用のアクションが背後から突き刺すしかなくワンパターンだし、モーションもステルス向けには作られていないので不恰好。明らかにステルスより戦闘の方が楽しいのに、ステルスをした方が楽に進めてしまうのも何だかなぁという感じ。
メタルギアだからとりあえずステルスを入れとくかという付け焼き刃な作りである事がありありと分かるのだが、こんな中途半端な事をするくらいなら普通の一本道アクションゲーとして作れと言いたい。

ゲーム性を犠牲にしてまでメタルギアに合わせているにも関わらず、シナリオや世界観に関しては清々しいまでにメタルギアとは関係ない。特にキャラクターデザインのプラチナ臭は凄い。ジェットストリームサムは名前といいデザインといいキャラといいカッコ良すぎ。
しかも終盤の話は、どう考えてもかつてクローバーが手掛けたゴッドハンドのノリだった。ラスボスの異様な身体能力の理由が「スポーツマンだから」で済ませているのは潔すぎる。
物語的には殆どメタルギアは関係ないが、随所にメタルギアの名台詞が使用されており、その無理矢理な詰め込みっぷりにニヤリとしてしまうこと間違いなし。大きくなったサニーも出てくるが、何ともやっつけ感漂う出演だった。いい加減なステルス要素と言い、メタルギアの扱いは総じて適当だと言わざるを得ない。
ただ、雷電の人間ドラマは原作を準拠しつつ中々良く語られていて良かったかな。

メタルギアファンに媚びてるのか媚てないのか良く分からない中途半端な内容であるが、肝心なアクションに関しては「斬る快感」のテーマに正面から向き合った、一級品の出来栄え。
とにかく衝撃的なのが、自由に太刀筋をコントロール出来て、太刀筋通りに敵やオブジェクトが切断されること。切断は部位単位の大雑把なものではなく、本当に数センチ単位で切り刻める。これはかなり驚かされた。
この自由切断は演出としてふんだんに使われており、めちゃくちゃに刀を振り回して敵をバラバラにしてやるのが凄く爽快なのだか、
ゲーム性としては敵の決められた部位を切断することで体力回復やポイント取得に繋がるという形で取り入れられているぐらいで、押し付けがましく使わせていない。ボス戦でいくつか自由切断を求められることがあるが、狙った通りに斬るのは中々難しくイライラしたのでこれは良い判断と言える。

自由切断はもちろんインパクトがあるが、基本的なアクションの出来も良い。アクションのモーションやゴリ押しでは進めないゲームバランスは流石プラチナと言ったところ。
アクションに切れ目がなく、適当にボタンを押しているだけでもコンボがサクサク繋がるのはコンボを覚えるのが苦手な俺にとっては有難いし、そこそこ敵との距離が離れていても吸い付くように素早く近付いて攻撃出来るのも快適。
また、このゲームで特徴的なのがシノギと呼ばれる敵の攻撃を受け流すアクション。回避やガードは存在せず、攻撃を回避するには主にシノギを使わなければならないのだが、この操作は敵のアクションに合わせて相手方向にスティックを倒しながらボタンを押すというかなり癖のあるもので最初は手こずる。しかしこれは攻防一体の感覚があり刀の特徴を引き出しているし、慣れるとキャラとの一体感が感じられて心地良い。アクションの直前に相手の目が赤く光って合図してくれるのも良い配慮。
しかし、カメラが前代未聞レベルで酷い。壁に引っかかるわ勝手に動くわもうどうしようもない。そもそもカメラの範囲外から飛び道具が頻繁に飛んでくるのがウザすぎるんだけど。ロケットランチャーを使う敵は鬱陶しいだけだから本気でいらない。近接の敵だけで良い気がする。
あと、連続で攻撃を受けると気絶してスティックカチャカチャを求められるのだが、これが無駄に硬くてイライラする。つうかスティックカチャカチャは疲れるからボタン連打にさせろ。

アクションといい、キャラクターといい、全体的なノリといい、基本的にはプラチナの成分が色濃く出ているのだが、それだけに中途半端なステルス要素が邪魔。ステルスをちゃんと作り込むか、ステルスを無くした普通の一本道アクションにするかどちらかにして欲しかった。ステルスを無くすとメタルギアである必要が全くなくなるが、そもそもこのゲームのコンセプト自体がメタルギアでやる必要のないものだからな。ただ雷電が主人公というだけで。
このゲームをやって分かったのは、アクションゲームはアクションが面白いだけじゃ駄目なんだなということ。ステージの仕掛けや派手な演出でメリハリを付けていたからこそ、アクション部分が引き立っていたんだな。アクションと自由切断のシステムは素晴らしいだけに、メタルギアという縛りが無ければと思わずにはいられない。メタルギアだからこそ金をかけてここまで作り込めたとも言えるが。
メタルギアではなく、全くの新しいタイトルとしてこのシステムのゲームを作って欲しかった、というのが正直なところ。