一期一会日記




『ウーラシールの霊廟』

洞窟を抜け、ウーラシールの地へ到着。コケシの形をした石像が篝火を囲うようにして無数に立ち並んでいる。そこに紛れるようにしてキノコマンが生えているが、敵の予感がしてならないのでとりあえず無視して篝火を灯してリスポーン地確保。
キノコマンは敵ではなかった。ついでにマンでもなかった。話の分かるキノコレディだった。彼女との話で細かい実情が分かってくる。
ウーラシールのプリンセスは闇の手に飲み込まれてしまったこと。アルトリウスが助けに向かったが恐らく闇に取り込まれてしまったであろうこと。キノコレディはウーラシールのガーディアンを務めていること。
確か設定ではウーラシールは数百年前に滅びた亡国だったはずだから、今いるこの場所は過去のウーラシールってことか。で、現在は深淵を操る何かに侵略されて、滅びる一歩手前であると。
アルトリウスはグゥイン王に仕える四騎士の一人。深淵歩きのアルトリウスとも呼ばれている。黒き森の奥にアルトリウスの墓があったが、彼はこの地で息絶えたのか。

『王家の森庭』

橋を渡ると鬱蒼とした森が広がっている。早速、木の化け物と出くわす。木の化け物はローランドにもいたが、こいつは知能があるのか布切れを羽織って槍を装備している。しかし魔法であっさり倒れる。
魔法であっさり倒れてくれないのが巨大な埴輪兵。ハンマーの一撃でやられる。死亡。

リトライ。
あまりにも敵の数が多く、全て倒していると時間がかかるし魔法も足りないので森の端っこをこっそり渡って気付かれないように進んでいく。端っこすぎて落ちる。死亡。

リトライ。
端っこを進む。敵はこちらに気付く様子がない。労せずして森を一周する。
二つ目の橋を発見。渡ろうとすると突如上空から全身赤黒いドラゴンが現れ、橋に仁王立ち。睨み合う格好になる。
このドラゴンかっけぇなぁーとか思いながら眺めていると、何処かへ飛び去ってしまう。危険は去ったので橋を渡る。
細い道なりに進んでいると厄介なことにまた木の化け物が。ちと地の利が悪いな。って何だこいつ、普段は切られる立場のくせして植木ハサミを装備してやがる。何てウィットに富んだジョークをかましてくるんだ。
しかも結構ウザ強い。華麗なステップでこちらの魔法攻撃をサクサクかわしてくる。しかしそのステップが仇となって落ちてくれる。ラッキー。
また森が広がっている。木の化け物が植木ハサミで木の枝を手入れしているという、何とも奇妙な光景を目の当たりする。気付かれないように進もうとするが、あっさり見つかってしまい、一匹に気付かれるとそれに呼応する形で周りの木の化け物もこちらに反応し、数的に考えて勝ち目は薄いので逃げるが逃げた先でもまた木の化け物がいて、挟み撃ち。死亡。

リトライ。
木の化け物。たくさん。逃げる。落ちる。死亡。

リトライ。
篝火に人間性を捧げてエスト瓶の上限を増やす。戦う覚悟を決めました。
人間性を捧げると亡者から人間に戻ることになるのだが、この状態でいるとオンラインに繋いでいる他のプレイヤーが侵入してくることがある。下手くそな俺は、侵入されると即殺られる自信がある。お願いだから誰も侵入しませんように。
願いは通じませんでした。二つ目の橋を渡り切ったところで、恐れていたことが起こる。他のプレイヤーが侵入したとのメッセージが。
しかし久しぶりに侵入されたので対人の仕様をすっかり忘れており、相手は入口からスタートだろうから多分追い付いて来れないだろうと思い、わりかし余裕ぶって進む。
道中では毒々しい色をした形容しにくい物体が不自然に並んでいる。よーく見ると人間の形をしているようにも思えるが、まさかウーラシールに住む人々だろうか。触れてみると塵となって崩れさった。
いきなり背後からバックスタブを食らう。その物体の一つが侵入者だった。どうやら擬態の魔法で背景に溶け込んでいたようで、俺がここに通りかかるのを待っていたようだ。
エスト瓶を飲んで回復。その間、侵入者はご丁寧にお辞儀のポーズで余裕ぶっている。擬態からのバックスタブは只の挨拶で、ここからは互いにイーブンの状態で正々堂々やりましょうってかよ。こいつ明らかに俺を下に見て舐めてやがるな。
確かに俺のプレイヤースキルは秀でていないし、装備や魔法も対人を想定していない。何より殆ど対人をしたことがないので圧倒的に経験が不足している。まともに挑んだところで間違いなく負けるのは目に見えている。
しかし、このまま何の一矢もなく負けるのは本意ではない。擬態にまんまと引っかかり、敵のお情けで回復の猶予をもらって、その挙句に圧倒的な実力差を見せ付けられて屈する。何とも情けない顛末じゃないか。それを味わせて自己陶酔したいのだろうこの嫌らしい侵入者は。余裕で満ちたこいつのシナリオ通りに事が進むのは何とも気に入らない。俺は絶対にお前の手のひらの上で踊らされないぞ。
しかし俺に勝てる見込みはほぼない。かと言って回線をブチ切るのは流石にマナー違反。ならばどうするか?

俺も挨拶を返す。エイエイオー、と。一緒に頑張ろうという意味を表す挨拶である。そして俺は侵入者を全く意にせず、何事もなかったかのように歩を進める。そこら中にいる木の化け物にソウルの矢を放っていく。
それを呆然と見守っている侵入者に、どうしたの?手伝ってよ?という意味を込めてまたエイエイオーとポーズする。
すると侵入者も敵を斬りつけてくれる。しかし敵にダメージが入ってる様子はない。何だ、侵入者はモンスターに干渉出来ないのか。デモンズソウルでは出来たような気がしたんだけどな。
俺は納得し、木の化け物を全て倒していく。森はようやく俺の庭となる。しかし道がややこしくてゴールが分からない。何処へ進めば良いか分からない様子の俺に、侵入者が先導してくれる。
侵入者の後をついてくと、遺跡の残骸を発見する。紋章の上に乗るとエレベーターが起動。侵入者と一緒に乗り込み、下へとさがっていく。
エリアを別けるモヤを発見。この先がボスと見て間違いないだろう。先走る俺に侵入者が手招き。見ると右の方に道が伸びている。その道を進むと再びエレベーターを発見。篝火の近くにある遺跡の残骸へ到着。ショートカットか。これで安心してボスと戦えるな。
靄の前に再び立つ。少し後ろには侵入者がいる。侵入者に背後を取られるのは自殺行為と言っても良いだろう。だが、俺に猜疑の念はなかった。彼を信じていたから。たった10分ほど旅を共にしただけだが、そこには確かに友情があった。全く相反する存在同士でも、心を尽くせば、共に手を取り合うことが出来るんだ、分かり合えるんだと、痛感する思いだった。
彼は手を振っている。頑張れよと言っているのだろう。言葉は見えなくとも、気持ちは伝わるものだ。俺もそれに応えるように右手を挙げる。モヤを潜れば侵入者は消えてしまう。いや、もう彼は侵入者ではない。紛れもない友だ。だが友よ、恐らくもう二度と会うことはないだろう。所詮、旅は一期一会。
俺は彼の思いを胸に、モヤを抜ける。その先に、アルトリウスが待っていた。

という痛い妄想を脳内で巡らしている間に、実際は容赦無く侵入者にボコられていましたとさ、ちゃんちゃん。現実の厳しさに俺は泣いた。
今日はここまで。