舞城は舞城






VSジョジョ企画の第三弾。舞城王太郎著作。

“19世紀末期、ラ・パルマ島に住んでいる11歳のジョージ・ジョースターは虐められっ子のイギリス人で、特にアントニオ・トーレスなんかは学校帰りに犬の糞を顔にべったり付けてくるのだけど、虐められる度にリサリサが助けてくれて彼女は不思議な力を持っていてめちゃくちゃ強いのだが、そのせいでアントニオがペラペラの皮一枚になった時に殺人の疑いをかけられてしまい、でも実はそれはアントニオの母親が息子の皮膚を剥いで作った標本芸術であるということをジョージの同級生で名探偵の九十九十九が突き止めるのだけど、結局中身のアントニオは吸血鬼となった彼の父親に殺されていて、フェルナンデス先生に化けてたアントニオの父親はジョージ達に襲い掛かってくるのだが、不思議な力を開花させたリサリサが吸血鬼を瞬殺して危機が去ると、友達のいなかったジョージは九十九十九と仲良くなって親友と言えるまでになるも高校生になる直前に九十九十九は日本に帰国することになり、しかし3日後のフロリダ沖で彼の乗った船は姿が消えてしまってジョージがたっぷり二ヶ月間無事を祈っていた一方その頃、21世紀の福井県西暁町に住んでいるイギリス人のジョージ・ジョースターは数々の難事件を解いてきた名探偵で、15件の連続密室殺人事件の法則性を解いて辿り着いた加藤さんの家で名探偵の九十九十九に会うのだけど実は彼は1904年から飛んできた人間で、それから色々あって杜王町に行くことになったのだが、そこのアロークロスという館では首を深く切られてうなじのところで皮膚一枚残っている九十九十九の死体があり、彼は服を脱がされ赤い菱形の腹掛け一枚を着せられ凶器のまさかりを担がされ標本の熊の背中に股がされて、つまり昔話の金太郎に見立てられて殺されていたのだが、そうこうしている間に杜王町が南下し始めてしまう”


いや、うん。まぁいつも通り訳が分からないよね。しかもこのあらすじの分は大体2章で収まってるんだよね。つまりまだまだ序の口なわけで、この先はもっとカオスなことになっている。この話を完璧に理解出来るのはこの世に作者一人しかいないんじゃないかと疑いたくなるほどもう何を言ってるのか理解出来ない。訳が分からないのは舞城王太郎作品の基本であるが、そこにジョジョの奇妙奇天烈な世界観が組み合わさることで今作は更に過剰なものとなっている。
なのに、面白い。まるで何を言ってるのか分らなかったのにとても面白かった。
舞城の特徴である、グロテスクな描写、突飛な設定、唐突な展開は何も理屈を無視して飛躍されているわけではない。ただインパクトを与えるためだけの要素でもない。全てに文脈があり、意味があり、理由がある。物語の展開装置やトリックの種として機能させているのは当然だが、人間の精神・感情・煩悩を究極に表現したものとしてそれらが表されている。そしてそれらがドライブのかかった圧倒的な文圧でこちらに押し寄せてくる。だからどうしようもなく心が揺さぶられてしまう。感情を鷲掴みにされてしまう。
今作の超常現象の多くはスタンドと呼ばれるジョジョの世界特有の力によるものだが、スタンドの概要がトラウマによって負った心の傷が具現化されたものというのは、舞城小説のスタンスにズバリ当てはまったもので、とても良いように作用している。舞城とジョジョの相性は総じて良い。

ジョジョの奇妙な冒険を題材にした小説であるが、主人公は原作で殆ど触れられることのなかったジョージ・ジョースター。そのため周りのキャラクターも今作限定のオリジナルが多く、話自体も彼個人の半生を中心に進むため、ジョジョの話やテーマとは殆ど関係ない感じで物語は展開されていく。
たまに原作の補完的な話も出てくるし、ジョジョキャラの人間性をより本質的に捉えようともしているが、あくまでこの本はジョジョとコラボレーションした舞城小説であって、それ以上でもそれ以下でもない。終盤のやりたい放題な展開を笑って見られるかどうかはそこにかかってくるだろう。
何しろ後半からはジョジョのオールスターが入り乱れたスーパーロボット大戦ならぬ、スーパージョジョ大戦が展開される。なんとなんと、カーズVSディオという、夢の対決まで見られるのだ!
ディオが咬ませ犬すぎるとか、カーズが親切すぎるとか、色々と納得出来ないことはあるが、ここまで大掛かりなカタストロフを見せてくれるのであらば仕方ない。話が進むに連れどんどん加速していく異様な盛り上がりには圧倒されてしまう。最初から最後まで勢いが落ちないのは見事。

ジョジョの話を忠実かつ引き立たせるような内容ではないのでジョジョ目的で買ってしまうと文句を言いたくなる内容かも知れないが、と言うか完全に同人誌と割り切る必要性があるくらいだが、舞城の魅力は存分に発揮されている。コラボ作品はコラボ元を引き立たせようとすると作者の個性が失われてしまいがちだが、この作品は逆にジョジョの要素が舞城を引き立たせていると言っても過言ではない。スタンドの仕組みとかとても舞城小説と相性が良い。
欠点は普段の舞城作品に比べるとテーマがとっ散らかってるように感じてしまうところだが、ジョジョ作品として(同人誌としてだが)楽しめるようにエンタメ寄りになっているのでそれは仕方ないか。とりあえず満足。