システムをもっと活かして下さい






3DSとPSVとPSPのアドベンチャーゲーム。開発はレベルファイブ。俺は3DS版をプレイ。

428のイシイジロウ氏が関わっているというだけで特に何も調べずに買ったのだが、システムが428と街を踏襲したもので驚いた。まさかこのシステムで新作を作ってくれるとは。街と428のファンである俺からしてみればこんなに嬉しいことはない。レベルファイブナイスだぜ!

街と428の何が凄いって、全く置かれた環境の違う複数の主人公のシナリオが複雑に絡み合って構成されていることで、それぞれ関係性は希薄なのに、分岐の選択によっては大きな影響を与えており、確かな繋がりを感じさせてくれることだ。
例えば、主人公Aパートをプレイ中に、信号を無視するかしないかの選択肢で「無視する」を選択したとする。すると、主人公Bが乗った車がAを引きそうになり、BはAを注意する。しかし、このちょっとしたタイムロスで、Bは出合うはずだった人物と出会えなくなり、主人公Bパートをプレイした時にゲームオーバーとなってしまう。こうなったら、主人公Aのパートをやり直し、選択肢で「信号を無視しない」を選ぶことによって、Bは無事にある人物と対面し、物語は進んでいく。
更に途中で話が「キープアウト」してしまうことがあり、こうなるとそのパートは先を読み進めることが出来なくなるのだが、他のパートでキーワードを探し当てるとこのキープアウトが解除されるので、続きを読むことが可能になる。

とてつもなく複雑怪奇で作るのが大変そうなシステムだが、何気ないことの連続が主人公の運命を大きく変え、最終的に大団円に繋がっていくのだ。現実の世界でも「あの時ああしておけば良かった」と思うことは多いはず。この作品はそんな人生そのものを体現していると言えるし、現実世界でも僕たちは緩く薄い関係で確かに繋がり合っているんだと実感させてくれる。
街で初めてこのシステムに触れた時、ノベルとゲームの絶妙過ぎる融合に感動した。小説では出来ない、映画でも出来ない、ゲームだからこそ出来る体験だった。この画期的かつ面白いシステムを採用した今作がつまらないわけがない!

って、あ、あれれ?あんまり面白くないぞ、これ。システム自体は428とかとあまり変わってないのだが、話の展開の仕方がマズすぎる。428や街は5つ以上のパートをどのパートからでも自由に進められたのに、今回はパートを自由に選択することが出来ず一方通行。とにかくこれが大問題。
428や街はゲームオーバーになったらどのパートの分岐の選択がマズかったのだろうかと探して、え?こんな所が繋がっていたの!?という流れが楽しかったのに、これはゲームオーバーになると自動的に次のシークエンスに進み、その中に答えが隠されているため別に深く探す必要もないし、簡単に見つかるから繋がりの偶然性も弱く感じて、このシステムが引き出すはずの「世界は緩い関係で繋がっている」感が薄く、ただのご都合主義にしか見えなくなっている。各パートを自由にザッピングして分岐を解いてくからこそ活きていたシステムの妙が完全に死んでる。
順番に話が進んでいくので混乱しにくいというのはあるが、そのためにシステムを殺してしまっては意味がない。せっかく街と428のシステムを採用した待望の新作が出たと思ったのに、あまりにも扱い方が酷くてテンションが下がりっぱなしだった。
が、終盤になると自由にパートを選べるようになってシステムを存分に堪能出来るようになるし、特に最後はゲームオーバーの応酬となり複雑に分岐が絡んできているのが分かるし、物語も終盤に進むにつれて俄然面白くなってくるので、前半の低空飛行っぷりは何だったんだと思いたくなるほど後半は盛り上がる。それだけに前半が惜しい。

ストーリーに関しては、テーマ性という意味で言えば間違いなく街や428より上。
街はキャラクター同士がそれぞれ直接交わることは殆どなくでも確かに緩い関係で繋がっており、あくまで『街』の中で起こった小さな出来事に終始した展開は良かったが、それぞれの結末がバラバラで群衆劇としては物足りない面があった。一方428は、一つの事件を軸としたことで展開がスマートになり、5人の主人公の物語が終盤に進むに連れて一つの結末へと収束していく気持ち良さがあった。
タイムトラベラーズも428と同じ形式で、一つの事件を基盤にして5人の主人公の話が繋がっていくのだが、428が明快なサスペンスドラマだったのに対し、今作はテーマが深い。各主人公のパートにそれぞれテーマがあって、そのテーマを基に忠実に話が進められており、結構感慨深いものがある。

428や街は実写による紙芝居だったが、今作はタイムトラベルという非現実的な題材であるためかポリゴンによるフルムービー。12時間以上のボリュームがあるのにこの力の入れようは驚いた。同時にこの設定はシステムを説明する理由付けにもなっている。
フルムービーのおかげで脳内補完する必要はなくなったが、会話は一切飛ばせず一言一句聞く必要があるのでテンポは悪い。あと、3D効果は今回もどうでも良かった。

後半である程度改善されるとはいえ、前半は最悪。ここまでシステムをないがしろに出来るのはある意味凄い。せっかくの優れたシステムなんだから、それを活かすことを大前提にゲームデザインして欲しいんだけどなぁ。あまりにも勿体なさすぎる。フルムービーに力を入れ過ぎて、物語とシステムを絡める部分が疎かになっているような気がしてならない。
とは言えストーリーは単体で見れば良く出来てるし、システムも最後の最後で楽しめるようになるので、街や428のファンなら買うべき。